はじめに

 栃木県佐野市にある「清酒開華スタジアム」で繰り広げられる「SANOスプリントシリーズ」は2021年から始まりました。
 初年度は「栃木県スプリント記録会」を短距離種目特化型の大会として実施し、2年目(2022年)には、大会名称を「SANOスプリント」に改称して行いました。
 3年目となる2023年には、SANOトワイライトゲームズを開催し、栃木県スプリント記録会、SANOスプリントと併せてSANOスプリントシリーズとしています。 
 なお、大会キャッチコピーを「スプリントはSANOだ!」とし、各対象大会のプログラムに明記しています。

大会会場
清酒開華スタジアム
(佐野市運動公園陸上競技場)

大会主催者
一般社団法人SANOスプリント
佐野スパルタ倶楽部
一般財団法人栃木陸上競技協会

後援
佐野市
佐野市教育委員会
佐野市中学校体育連盟

SANOスプリントシリーズ対象大会

大会エントリー者数

※対象となる9つの大会のエントリー数の推移は、後述されるインカレ有効期間の関係上4月と8月に開催されるSANOスプリントの参加者が多くなる傾向にあり、年々増加している。
(⇒第2回SANOスプリント:2021年634人 2022年873人 2023年930人)
※令和5年度(R5)SANOトワイライトゲームズについては、こちらも後述されるターゲットナンバー制のためエントリー数は少なく(98人)なっている。

実施種目

 ①100m ②200m ③ハードル(男子110mハードル 女子100mハードル) ④60m 

 ※①と③についてはAM(午前)レースとPM(午後)レースを設けており、参加者は希望すれば2回走れる。

 ※SANOトワイライトゲームズにおいてのみやり投と走高跳を実施

SANOスプリントシリーズに出場した日本代表選手

SANOレコード(SANOスプリントシリーズ歴代上位記録:男子100m

概況および大会の特徴

 これまでに9回実施してきたSANOスプリントシリーズですが、様々な年代やレベル、背景を持つ選手に参加していただいています。オリンピックや世界選手権といった国際大会に日本代表として出場する競技者や国内でトップレベルの実力を誇る有力選手から、地元や県外の中学生や高校生、さらには還暦前後のマスターズ選手やパラリンピック日本代表の選手が同じ大会で競い合っています。こうした点でSANOスプリントシリーズ(特にSANOスプリント)はあらゆるレベルや世代、志向を背景にもつ競技者が誰でも参加できる、多様性のある競技会といえます。
 SANOスプリントが大学生にとっての最重要試合である日本インカレや地区インカレの参加標準記録の有効期間に開催することが多いことから、参加者の中でも栃木県外登録者の大学生が多く見受けられます。その範囲は関東に留まらず、西日本や東北から参加する学生も見られます。

記録が出る競技会

 これまでSANOスプリントシリーズには多くの日本代表選手が参加し、わずか3年の間に日本トップクラスのハイレベルなパフォーマンスが数多く生まれました。
 好記録を生む最大の要因は会場である清酒開華スタジアムにあるといえます。清酒開華スタジアムは、半世紀近く利用されてきた歴史のある競技場です。建設の際に1年間にわたって風向きを測り、ホームストレートが追い風になる方角を突き止めたうえで競技場を設計されています。周囲を山に囲まれた地形であることも手伝い、ホームストレートは南風が常に吹き込み、スプリンターにとって走りやすい環境が生み出されます。さらに、反発の高い素材をサーフェイスに用いることによって日本でも有数の記録の出やすい競技場・選手が良い感覚を掴みやすい競技場と評判を呼んでいます。

転機

 SANOスプリントシリーズにとっての転機は令和4年度第2回SANOスプリントでした。この大会には、女子100mハードルの元日本記録保持者である寺田明日香選手(ジャパンクリエイト)や直前に行われた世界陸上オレゴン大会でアジア新記録を出して4位に入賞したリレーメンバー3名を筆頭に8名の日本代表経験者が大会にエントリーし熱戦を繰り広げました。


 トップアスリートに加え、大会MCとして世界陸上ロンドン大会銅メダリストの藤光謙司氏とASICSランニングナビゲーターとして各種イベントで活躍している宇佐美菜穂氏をお招きし大会を彩っていただきました。選手紹介や競技の見所、藤光氏によるトップアスリートならではの視点を織り交ぜた解説で会場は大いに盛り上がりました。また、競技の合間にはMC二人が司会を務めながら、リレーメンバーの表彰セレモニーを行い会場は温かい声援と拍手に包まれました。大会終了後には地元の小学生を対象としたかけっこ教室を行い、子どもたちが楽しく陸上競技にふれあう機会を設けることもできました。講師はレースを終えたばかりの寺田選手が務め、参加生徒は日本代表選手から直接指導を受けることができました。この大会は地元メディアにも大きく取り上げられることとなりました。

大会スポンサーによる冠レースの実施

 その後に行われた第3回SANOスプリントでは地元企業2社(第一酒造・6月の森)がスポンサーとなり、男子100mにおいて「開華カップ」、女子100mにおいては「6月の森カップ」を特別レースとして開催し、上位入賞者にスポンサーから賞品が提供されるなど地域を巻き込んで実施されました。全国レベルの大会で見られる、スポンサー名や主催団体を記したスポンサーボードをコース脇に設置してレースを行い、大会は盛況となりました。

日本記録保持者・山縣亮太選手出場

 迎えた3年目。第2回SANOスプリントにおいて大会スポンサーとして森永製菓様が名乗りを上げてくださり、大会名称を「森永製菓inゼリーpresents令和5年度第2回SANOスプリント」として開催しました。注目度が高まる中、大会キャッチコピー「スプリントはSANOだ!」を象徴するともいえる選手の出場が決まりました。男子100mで9秒95の日本記録をもつ山縣亮太選手(SEIKO)です。
 大会当日は山縣選手の姿を一目見ようと観客が押し寄せ、スタンドは超満員となりました。山縣選手と同じレースには、世界選手権日本代表選手で地元企業・第一酒造所属の水久保選手も名を連ね、見ごたえ十分なレースが披露されました。
 復帰後のベスト記録をマークした山縣選手は、SANOスプリントの直後に行われたSANOトワイライトゲームズも出場レースとして選択してくださりました。

クラウドファンディング・チアリーディング・真夏の夜の試合「トワイライトゲームズ」

 SANOトワイライトゲームズはSANOスプリントとは趣向を変え、超ハイレベルな選手のみが本選に出場できる「ターゲットナンバー制」を導入して行いました。これは、各種目において試合の出場者数を設定し、記録上位の選手のみが出られるという仕組みです。出場者数を絞ることで、トップ選手が集結するとともに大会時間が短縮され、集中力を途切れさせることなく観戦することも可能になります。
 種目は男子100m、女子100mハードルの短距離系2種目に加え、跳躍と投擲のそれぞれ1種目ずつ(男子走高跳・男子やり投)を採用しました。事前に佐野市内すべての小学校にチラシを配布し、当日は多くの家族連れの観客が来場し、トップアスリートたちのパフォーマンスを間近で体感することとなりました。


 4種目すべてにおいてターゲットナンバー制を導入してトップ選手が集結したこと以外に、SANOトワイライトゲームズには大きな特徴が3つありました。一つは、クラウドファンディングの実施です。各種目の上位選手に活動資金を進呈するためにリターンを用意したうえで支援を求めました。選手の息づかいが聞こえるくらい近い距離からの観戦が可能となる特別席をリターンとして用意するなどし、家族連れで特別席を利用する支援者が目立ちました。クラウドファンディングの支援は当初の予定を大幅に上回るもので、集まった資金を選手に還元するという取り組みを行うことができました。


 二つ目は、大会サポーターとして地元の小中学生および高校生のチアリーディングチームを招いて応援パフォーマンスを実施したことです。球技をはじめとしたプロスポーツ以外でのこうした試みは珍しいものといえます。観客からも盛大な声援が送られ、大いに盛り上がりました。


 三つ目は夜の競技会ということです。真夏の開催となったSANOトワイライトゲームズですが、気温の落ち着く夜は過ごしやすく競技に集中しやすいものとなりました。夏の競技会は少なく、順調にトレーニングを積んでコンディションが整っている選手にとっては貴重な機会といえます。こちらも多くの選手から好評の声があがり、次年度以降の開催を熱望する声が多数寄せられています。

むすびに

 開始から3年が経過し、多くの選手に集まっていただいているとはいえ、まだまだ道半ばのSANOスプリントシリーズ。県内に留まらず全国各地の選手が集い、競い合うとともに交流を重ねる状況は、まさに地域活性化につながるものであり、社会がスポーツに求める役割を具現化しているものといえます。これまでのスポーツ振興といえば、「選手の強化」「競技の普及」の二軸を中心として取り組みがなされてきたといえますが、それらの概念を超えた価値を陸上競技の中から見出し、上手にアウトプットできるよう努めていきたいところです。陸上競技の新たな振興に関わる活動を通じて、より豊かで明るい社会が実現されることを目指し、地域とともに発展と成長を続けていきたいと考えます。挑戦し続ける選手と同じように、支える我々も挑戦を続けていく。まだ誰も見たことのない、素晴らしい未来の風景を創り出すことを目指して。